凱旋といえば、北村薫。

昨日のセミナ日記は興奮さめやらぬまま書いたのでちょっと今見直すと恥ずかしかったり。


で、「凱旋」です。
本格ミステリ03(講談社ノベルス) に所収の短編です。
北村薫作品は「盤上の敵」がバレエになったり*1「ターン」*2が映画になっていたりNHKで「覆面作家」がドラマ化されていたり*3
なかなか映像向きな作品を書かれる方だと思います。
この「凱旋」も短いながら印象的な佳作だと思います。

我死なば鯉幟をば立てよかし凱旋したる証ばかりに

引用しましたが漢字や細かいところが間違っているかも。
後で本を確認します。
上記の短歌は主人公の、戦争で亡くなった叔父が作ったものです。
あまり詳しく書くとお話そのものになってしまいますが、
淡々と進むストーリーの中に
叔父の作った短歌から想起される光景、母の思い出、そこに繋がるおせち料理のチョロギ、など
一瞬どこかから切り取ってきたように鮮やかな色の映像が加わることで
控えめで静かな展開の、悪く言えば地味な話が
実はハッとさせられる美しい瞬間を持っていることに気づかされるのです。


「ベルリン 天使の詩」か小津作品っぽい感じかなぁ。
その二つを並べることにどんな意味があるのかとか言われると困りますが。


作者自身も「エッセイにしても良かった」というようなことを書いていますが
文字の向こうにいる「ヒト」を見つけていくと言う意味ではミステリですよね。
「円紫さんと私」シリーズの 「六の宮の姫君」(創元推理文庫)に通じるものがあって、
ミステリとしての解決時の爽快感には乏しいんだけど
じわじわ味わいたくなる作品です。

*1:http://eee.eplus.co.jp/s/banjyo/ 正直びっくりです。

*2:http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=234814

*3:再放送を激しく希望