あるおはなし

貸し農園で野菜を作っています。


作った野菜はもちろん自家用ではあるのですが、畑のそばに無人販売所も設けていて、ほしい方に持っていってもらいます。
農園のある場所は賑やかな通りに面しているので、車で通りすぎる方もいれば立ち止まって吟味する方もいるし、中にはいびつな野菜ながら買ってくださる方もいます。
ある種類の野菜を並べたときだけ、ある人がやってきます。
以前、近くの農園にいた方で、その人も当時同じ野菜を作っておられました。
私よりもはるかに上手で、買い手もたくさんいらっしゃったようですが
偽善者めいた私のいらぬお節介が原因(たくさんあるうちの一つに過ぎないのかもしれませんが)となり、その人は農園を出て行ってしまわれました。
私が原因だなんて、自意識過剰かもしれません。
ですが、他の方の農園でそういうお話をされているのを耳にしたことも事実です。


今、私がその野菜を並べているときにその人が何か話しかけてくるわけでもないし、今どこにおられるのかも知りません。
それでも、その人が作っていた野菜と同じものを並べたときだけ、その人はやってくるのです。
服装を変えて来られているようなのですが、乗ってくる車が同じなのでわかってしまうのです。
その人が私の野菜を気にして見に来てくださっているのだと考えていましたが、
ひょっとしたら「いつも見ている」ということを折に触れ私に知らしめてくださっているのかもしれないと思いました。
それが喜ぶべきことなのかどうかは、わかりませんけども。
やはり自意識過剰でしょうか。


私の野菜は無人販売所の店頭などではなく、もう少し奥まったところにおいておくべきものなのかもしれません。