本を読んで傷つく、ということ

盤上の敵 (講談社文庫)

盤上の敵 (講談社文庫)

id:goldwell:20071130:1196483329にコメントしようと思ったら長くなってしまったので、自分のとこで書きます。

異例なことだと思うど、作者まえがきによって、この作品に癒しとか救いを求めている人は読まない方がいいと断り書きしてあります。単行本を読んだ読者から読んで傷ついたという手紙が送られたからだそうで。北村作品はまだ2冊しか読んでいないのですが、やはり異色な内容みたいですね。


盤上の敵、何年か前に単行本で読んだきりでしたので、文庫版にはそんな注意書きがついていたとは知りませんでした。
dainさまの「劇薬小説」(私はまったく!読めなさそうなので避け本リストとして活用しています……)をイメージしてしまうと確かにヌルイ感じがしてしまうかもしれませんね。
多分傷ついた人は円紫さんシリーズの優しさや、覆面作家シリーズのコメディを愛するファンだったのではないかなあ。
実は円紫さんのお話でもそれほど優しく癒されるものばかりではなくって、現実の苦味……たとえば、幼い姉妹のちょっと残酷な関係性*1のエピソードなどもあるわけですから、読者が作者に対して「傷ついた」という手紙を送らずにはいられない読後感を残してしまうのはこのお話がそれだけリアルに登場人物を描いているからこそ、のことなのかもしれないと思いました。
女性の心理描写に感情移入してしまう人ほど辛い作品ではあるのでしょう。


そういう描写や内容が北村作品において異色かというと決してそんなこともなくて。
女性と間違われてしまうほどの優しくて繊細なまなざしと共に、実はとても透明なある意味冷徹とも言える視線をこの作家さんは持っているのだと思います。
長編やシリーズ物にはそういう空気感があまり出てこないように思うのですが、たとえば短編集(not only ミステリ)の

水に眠る (文春文庫)

水に眠る (文春文庫)

や一冊で完結(おそらく)の連作「探偵」モノ
冬のオペラ (角川文庫)

冬のオペラ (角川文庫)

なんか。
もうほんと、個人的にはたまらなくスキなので何度もいろんな方にお薦めしてしまっているのです……
でもでも、やっぱり、「盤上の敵」における女性の哀しみや男性のむなしさを単純に「後味が悪い」と片付けないでいられる人には「北村薫中級編」としてこの二冊、読んでいただきたいです。
いずれも一押しは表題作でしょうか。

*1:夜の蝉だったかと。うろ覚えです