ミステリ不足

最近不足しているミステリ分を補うために再読。

冬のオペラ (中公文庫)

冬のオペラ (中公文庫)

蒸し蒸しする初夏の京都で、しんと静まり返った冬の京都に思いを馳せておりました。
北村薫作品ではいつもヒロインの存在や生き様に胸を詰まらせながら読むのですが、この作品が私の中で特に大きいものになっているのはそれぞれの作品における脇役のキャラクタに理由があります。
探偵なんて飾りです。偉い人にはそれが(ry<元ネタ知らないけど使ってみたかった。


「三角の水」では犯人の疑いをかけられる理系大学院生の女性。
いささか鼻につくエリート意識、男性には負けないという自負が眩しく見えるのは私が失いつつあるものだからでしょう。
そして、
”彼女ならやめてもいいでしょ、だって女性は結婚すればいいんだから”
と言い放つ男子大学院生の台詞は読むたびに怒りに打ち震えます。
ヒロインと同じように。
私にとっては後味の悪いお話です。


以前人力検索で釈迦に説法的に語ってしまった「蘭と韋駄天」。
ライバルである女性同士の確執はここまでひどくなくても覚えがあります。
ちょっと滑稽に描かれていて、解決も気持ちがよい作品。
ここに出てくる建物、実は見たことあります。
でも「見比べたこと」はないので、いつかぜひ見に行きたい。
これを推したのはミステリとして優れているのはもちろんなんですが、他の二作には自分の個人的な思いが強すぎてうまく紹介できないのではないか、と危惧してしまったというのも理由の一つです。


やはり、ミステリとしての完成度や構成のみごとさ、幕切れの美しさでは「冬のオペラ」にかなうものではないと思うのですけどね。
大学講師の女性の夢と現実には、切なく、また胸が痛みます。
「切ない」なんて安易な言葉だと思うのですが、他に言い表す言葉を持ちません。
手の届かないものを、本来欲しがってはいけないものを欲し、それゆえ人は醜い鬼になってしまう。
自分がその鬼の首根っこを捕まえる韋駄天であることを悟ってしまった名探偵は、しかしながらその後は彼が解決するべき事件に出会っていないようです。
「続編がもし出るなら、絶対読みたいミステリ」なんてランキングがあれば私の中ではぶっちぎり第一位なんですけど!


あれ、角川でも文庫になってますね。冬のオペラ (角川文庫)
私が持ってる中公が絶版というわけでもないみたいですが、はて。
おーなり由子さんの表紙が作品世界にあっていると思うので中公文庫版の勝ち(謎)