五十歩百歩

競作五十円玉二十枚の謎 (創元推理文庫)

競作五十円玉二十枚の謎 (創元推理文庫)

毎週土曜日の夕方、五十円玉二十枚を千円札に両替してもらうためだけに書店のレジにやってくる男性。
彼の目的は何なのか?なぜ、五十円玉ばかり二十枚も手元に集まるのか?
若竹七海が遭遇したそんな謎に対する回答を競作形式で載せています。
創元推理で募集したとのことで、さすがに(って創元推理自体読んだことないんですが)内輪ネタ満載。
ミステリファンの集いに欠かさず参加するような方々が作者であり読者であり、選考者でもあるということのようです。
薄いミステリ読みだし、世代も違うし、そんなのわかんないよ…!
北村薫覆面作家として話題をさらっていた時期の作品なので、それについての言及やパロディもあったりして、ええまあそういうの、ファンとしては嬉しいのですが…同じようなネタばかりではいささか胃もたれしてしまうのも致し方ないのかもしれません。


それでも、やはり賞をとっている作品は単独で読んでも十分に楽しめる短編、もありました。
そうじゃないのもありましたけど。
…というか、剣持鷹士さんや倉知淳さんなどこの後プロ作家になってる方がたですからお話として面白いのは当然か。。
剣持氏の作品は設定には一読しただけでも分かるような穴があるんですが、(とはいえ選考過程の対談は先に読まないほうがいいかも!)それを差し引いても独創的で面白かったです。
やはりお金を払って買うならこのぐらいのクオリティがほしいなあ。
内輪受けパロディは大学ミステリ研究会発行の部誌(っていわないのかな、何だろう?)でじゅうぶんです。


そんな文庫化作品をどうしてわざわざ購入して読むのかというと、有栖川有栖の「老紳士は何故…?」。*1が入っている、というそれだけの理由なのであります。
しかも京都の、私が普段よく知っているあたりの虚実取り混ぜた記述が豊富で楽しいのです。
以下、読んだ人しか分からない内容ですいません。
マリアがバイトしているという河原町通り沿いの書店は今は亡き丸善だろうなあ、とか。
タクシーに乗って荒神口で右折するってことは京都府立大じゃなくて京都府立医科大でしょ、とか。
川沿いの喫茶店リバーバンクにアリスとマリアが行ったのかー、とか。(しぶいチョイスだわ…)
このお話が書かれた当時には近衛通り沿いに7階建てマンションはなさそうなので東一条か丸太町通りに重ねてるのかしら、とか。
「老紳士は何故…?」の舞台を巡るツアーがあったらツアコンだってできますわ。
この辺の学生さんなら誰でもできるだろうけどね。わは。


あ、忘れてた。
作品自体は江神シリーズ短編らしい軽めの内容で、にもかかわらずそれなりに緊迫したカーチェイスがあったり、2段構えに謎が提示されていたり、最後には有栖川作品らしい(?…ファンに怒られるかな?)オチもついていて安心して読めます。
オススメです。


で、これを読んだらやっぱり次は北村薫によるこの謎に対する回答であるところの、

ニッポン硬貨の謎

ニッポン硬貨の謎

を読まないわけには行かないわけで。
いやいや、これはクイーンのパスティーシュだから、さきにクイーンを読み込んでおくべきなのかしら。


なんてね。


そんな系統立てた、計画的な読書してませんから…。次は森博嗣の短編集です。

*1:個人名ではまだ出版されていない、江神シリーズの短編