男の嫉妬
- 作者: ジャン=ジャックフィシュテル,Jean‐Jacques Fiechter,榊原晃三
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/12/01
- メディア: 文庫
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ずいぶん昔に映画を見たのですが、書籍は初めて読みました。
積読解消週間です。
最初の引用文でノックアウトですがな。
しかし、われわれの憎しみはほとんど愛と見分けがたい
ヴァージニア・ウルフ 「波」
知的で学級肌な雰囲気と緑の瞳を持つがとにかく地味で頭も禿げ上がっているイギリス人出版会社社長と
元外交官で空軍パイロットでハンサムでタイラントでドンファンなフランス人作家の二人が少年時代からの旧友で
イギリス人はずっとフランス人の影として鬱々と生きてきたわけですよ。
(ここから腐ってます)
…この設定だけでもうおなかいっぱいですやん。
何故映画を見たときに萌えなかったのか自分で自分が理解できないくらいです。
(腐女子スキルがあがったのか)
しかし、フランス人の書いた作品がきっかけとなり、憎しみを暴走させたイギリス人が贋作をひそかに作りスキャンダルを起こしてフランス人を盗作作家だとして貶めるという。
ちなみにイギリス人はゲイ(バイか)ですがな。おそらく攻。
しかもそのきっかけを作ったともいえるのがフランス人なわけで、これもまたおいしすぎますがな。
以下ネタバレぎみ。
映画を見たときは単純に「復讐に燃える男の物語」として流してしまったのです。
なので文庫を買ってもいつか読もう…位の放置状態だったのですが、いざ読んでみるともうだめです。今まで読まずにいてすみませんでした。
イギリス人一人称で(これポイント)描かれている、彼の目を通したフランス人作家への愛憎まみれな心理描写が延々と続いておりまして、じたばたしながら一気読みしてしまいました。
ひょっとしたらフランス人作家はイギリス人のことを尊敬できる友人として愛していたのかもしれませんよね。手紙では時に素直に真情を吐露しているわけですから…おそらく、そんな正直な気持ちを見せられるのは彼の前だけ、しかも文章で表すことしかできなかったのではないかと。
しかしそれを冷ややかに見ることしかできなくなってしまっているイギリス人の劣等感、猜疑心、要するにツンツンぶりがたまらんですたい。おいしすぎる。
最後に…イギリス人的には復讐が成就され、自己を投影したともいえる(フランス人とは別の)作家の作品を手に入れ、その作家の妹とのハッピーエンド?らしきものがありますが、正直そんなのどうでもいいんです。むしろ蛇足です。
というか文章では幸せそうですがどう見てもそうは思えないのです。
これは腐フィルターのせいですかね?
それよりも、微妙にイギリス人の破滅を予感させる文章*1があったり、
イギリス人が自分が死んだあとには真実を明らかにするべくわざわざ証拠を残している*2ところが、
「実は愛に殉じている」ように見えてなりません。
死んだ作家の汚名は後に濯がれることになるわけですね。
でも、それはイギリス人が死んで後のこと。
彼は憎んだ相手を自分の手で完膚なきまでに叩きのめした勝利の美酒に酔いつつ、愛した相手*3がこの世にもはや存在しない空虚を抱えて、墓場までの道を歩んでいくのでしょう。