久しぶりのバイオなSF(ネタバレ全くありません)

ブルータワー

ブルータワー

新型インフルエンザによって壊滅させられ、貧富の格差が高度の差にそのまま表現されている世界に時間を越えて現れた救い主の物語、でした。
骨組みだけ取り出してみればなんともありがちで、この人の作品らしく大幅にはしょってマンガ化やアニメ化したりしても人気が出そうではあります。


ウイルス学の隅っこを齧っている人間としては、ウイルスの設定や解説、「嘘」の盛り込み方にふむふむと感心しながら読んでいたのですが、ヒロインの一人の弟がいかにもな研究者として描かれているのが興味深かったです。
そこまで人の心に無頓着なひとばっかりじゃない……と思いたいけど否定しきれない。笑い。
そして、二つの隔絶した、それでいて奇妙に対称性を持つ世界間での跳躍を繰り返す主人公が末期の脳腫瘍患者であるというのもうまい設定だとおもいました。
やはり国産SF(といってもいいのでしょうか…)の北村薫作品スキップ (新潮文庫)では時間を越えた原因について、理由のはっきりしない「記憶喪失」として扱われていたことにもやもやとしたものを感じていたので。



かなりのヴォリュームではありますが、娯楽作品として胸を張ってお薦めしたい作品です。


でもね、石田衣良好きだからこそ、ちょっとくどいなあ……と思ったところがあったのも事実。(以下はたわごとなので純粋に石田作品が好きな人は飛ばすほうがいいかもです)



以下、くどいなあ、というか「あんたも好きねえ」と作者に突っ込みたくなってしまったあれこれ。


世界の不均衡に悩む40男な主人公の姿とか。(個人的には萌えポイントではある)
映像が鮮明に浮かぶような、といえば聞こえはいいけども、やたらマンガちっくになりがちなキャラクターたちとか。
まあ、主人公が自嘲するように作家も読者も平和な21世紀に生きている人間に過ぎないわけなので、南北問題ならぬ高低問題のなか絶えず戦闘を繰り返す登場人物たちがリアリティあるのかないのかなんてわかりゃーしませんけども。
いちいち「あたしは汚れてるかも知んないけどさ…」とか言って主人公に身を差し出してくる年下のかわいいオンナノコその1とか。
年下のヒロインその2との「身体はつながってないけど心はつながってる」的関係とか。
最後のこれまた映画的な終わり方とか。


あ、なんか若さへの嫉妬が混じってる気がするぞ。うぐぐ。